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狐狸
新美南吉 (杜子春-译) 一 月夜,七个孩子正散步着。 高个子的孩子和矮个子的孩子溷在一起。 月光当头照射下来。孩子们的影子短短地映在地上。 孩子们看到自己的影子后说:“头很大呀,而且腿那么短。” 于是有些孩子感到有趣儿笑出来,而有些孩子因为影子的样子很奇怪,就好奇地跑了两三步看看。 在这样的月夜里,孩子们常常想着如梦一般的事。 这一天,孩子们要去离小村庄半里远的本乡①,看晚上的庙会。 “噼啦哩啦——。” 他们爬上凿开的山路时,笛声乘着春天微微的夜风而传来了。 孩子们不知不觉地加快脚步。 后来有一个孩子落后了。 “阿文——赶快来啊。” 即使是在月光下也看得出来,文六是个瘦干儿,皮肤白,大眼睛的孩子。文六尽力赶上他们。 “现在我穿的,是妈妈的木屐呢。” 最后他委屈地撒娇了。他细长的腿下穿着的,的确是一双挺大的大人的木屐。 ①东京都文京区的一个地区。 二 到了本乡后不久,路边有一家木屐店。 孩子们进去了那家木屐店,为的是要买文六的木屐。其实这是文六的母亲拜託其他孩子们的。 “喂——大妈。” 义则君噘着嘴叫了木屐店的大婶儿。 “他就是那木桶店的清先生家的孩子啦。你给他选一双木屐吧。等一会儿,他的妈妈就会来付钱呀。” 孩子们把木桶店清先生家的孩子推到前面,好让大婶儿看得清。那就是文六。他眨了两次眼,呆呆地光站在那里。 大婶儿噗哧一声笑了,随后从架子上把木屐拿下来。 这一双木屐文六穿得合脚不合脚,这就应该把它贴在他的脚上看。这时,义则君像是爸爸一般,把木屐贴在文六的脚上。其实文六是个独生子,也是一个很爱撒娇的孩子。 文六刚穿好新的木屐时,有一个驼背的老奶奶走进木屐店。她乍勐的说: “哎呀呀,不知从哪儿来的孩子们,你们知不知道晚上穿上新木屐,狐狸就来附体呢。” 孩子们大吃一惊,就看了老奶奶的脸。 不久,义则君说: “骗人,这怎么可能呀。” 另一个孩子说: “那只是迷信啦。” 儘管孩子们这样说着,但他们的脸上仍露出担心的表情。 木屐店的大婶儿流利地说: “好。那么,阿姨帮你们驱魔避邪吧。” 随后她做了划火柴的假动作,就碰了文六新木屐的底子。 “好了,这下狐狸、貉子都不会来找你的。” 于是,孩子们离开了木屐店。 三 孩子们边吃棉花糖,边看童僕的舞蹈。在舞台上的童僕,以一晃的神速手法,把两个扇子转动着跳舞。那个童僕儘管化香粉化得浓艳艳的,可是仔细看,她就是御多福澡堂的利根子。孩子们咬耳朵说: “那个女孩儿,是利根子嘛。” 他们看童僕看够了,就去昏暗的地方。放鼠火②,还有把摔炮扔到石墙玩。 许多的虫子围绕着照射舞台的明亮电灯飞来飞去。孩子们发现,有一隻很大的红黑色的蛾贴在舞台正面的檐头下。 在花车狭窄的一边,开始傀儡的三番叟③时,神社院内的人似乎少了一些,烟花和胶皮气球的声音也似乎少了。 孩子们排在花车的一边,仰着看傀儡的脸。其实傀儡的脸,和大人、小孩的毫不相似。那一双黑眼珠儿,总令人觉得有生命。它不时眨巴着眼睛。这是因为耍木偶的人在背地里操纵,孩子们也知道,但,当傀儡眨眼的时候,孩子们不知为什么,总有股说不上的悲伤和畏惧。 突然,傀儡张开大嘴吐了舌头,转瞬间,闭上了嘴巴。它的嘴里是红彤彤的。 当然,这也是耍木偶的人干的,孩子们也知道。假如是在白天,孩子们觉得有趣儿,就会哈哈大笑呢。但,现在孩子们笑也不笑板着面孔。在灯笼的光芒下——在影子较多的光芒下,傀儡就像活着的人一般,眨了眨眼,吐了舌头……。这可是多么可怕的事啊。 ——孩子们忽然想起来文六的新木屐,还想起来那个老奶奶说的,在晚上穿上新木屐,狐狸就来附体等话。 孩子们忽然意识到自己玩得太晚了,同时,也意识到自己还得在原野里走回半里的路程。 ②烟火的一种。 ③“歌舞伎”开幕时的祝福舞蹈。 四 月亮,回去的时候还明亮着。 不过,归途中的月亮,总是叫人扫兴。孩子们默默地——就像每一个人窥看着自己的心里似地——一言不发地走着。 他们走到凿开的坡道时,有一个孩子在另一个孩子的耳边,嘀咕一两句。接着听了话的孩子又靠近另一个孩子咬耳朵。然后那个孩子又跟另一个孩子咬耳朵。——就这样,除了文六之外,其他的孩子们悄悄地低声耳语传话了。 其实他们是这么说的:“那个木屐店的大妈,并没有为阿文的新木屐驱魔避邪,她只是随便学了个动作而已。” 然后他们又静悄悄地走了。除了文六以外的孩子们,默然无声地想着: “——被狐狸附体,这到底是什么意思呀?狐狸会进去文六的身体里吗?文六的身体、面貌都一样,只有他的心变成狐狸吗?诶?现在,他很有可能已经被狐狸附体!阿文不作声地走路,所以不知道真相,不过,很有可能他的心已经变成了狐狸呢!” 在同样的月亮下,同样的原野里的路上,大家想到的差不多都是一样的。这时他们的脚步,自然地加快。 “吭。” 当他们走到围绕着许多矮桃树的池塘边时,其中一个孩子,咳了一个小咳嗽。 他们静悄悄地走着,于是这一个小声音,还是没听漏。 除了文六以外的孩子们,偷偷地寻找着刚才的咳嗽声是谁发出来的。结果——他们发现那就是文六咳出来的。 文六吭的一声咳嗽了!他们想,这个咳嗽有没有特别的意思呢?想了想,刚才的不是咳嗽,而是狐狸的鸣叫声。 “吭④。” 这下,他们都认定文六已经变成了狐狸。他们一想到这里溷入了一隻狐狸,就觉得非常害怕。 ④在日文狐狸的叫声也用“吭”。 五 桶子店的文六家,就在离其他的孩子们家远一点的地方。周围都是房子和橘子园的他家,孤零零地盖在谷地⑤中间。孩子们总是从水车的地方绕过去,把文六送到他家的门口。因为,文六是桶子店清六先生的很宝贝的独生子,又是一个很爱撒娇的孩子。加上,文六的母亲常常给他们吃橘子、点心等等,也拜託他们和文六玩儿。于是,今天晚上也是一样,要去庙会的时候,他们就到文六家门口接他。 那么,现在大家终于走到了有水车的地方。水车的旁边有一条到文六家的狭窄路。 但是,今天晚上大家就像忘了文六的存在一样,谁也不愿意送他回家,其实,不是忘了他的存在,而是怕他罢了。 儘管这样,很爱撒娇的文六,还以为老是对他很好的义则君会送他回去,于是边不停地掉头看,边沿着水车走。 结果,没有一个愿意和文六一起走的。文六孤零零地走下狭窄的坡道,而这坡道直接通到月色明朗的谷地。青蛙的鸣叫声不知从哪里传来了。 其实从这坡道到文六家,是非常近的,于是文六一个人回家也不成问题。不过,除了今天晚上之外,朋友们每次都送他回家,每次都……。 文六虽然看样子老是煳裡煳涂的,但,其实他都知道,关于自己的木屐,他们刚才到底互相说了些什么,或,因为自己咳嗽了,情况发生了什么样的变化等。 去庙会之前,他们对自己那么地好,但,因为自己可能穿着新木屐而被狐狸俯体,所以连一个朋友都没顾虑到自己。文六对此感到十分难过。 虽然义则君比文六大四年级,可是他每次看到文六冷得发抖时,都会把自己的外褂脱下来,给文六穿(乡下的孩子们,寒冷的时候,把外褂披在衣服上)。但今天晚上,无论文六咳了多少次咳嗽,义则君也没有说要把外褂借给他。 文六走到了房子外围的罗汉树篱笆前。他打开后面的栅栏门要进去的时候,就看到了照在地上的自己小小的影子。有一个疑虑,忽然涌上他的心头来了。 那就是——说不定自己真的被狐狸附体了,要是这样的话,爸爸和妈妈会怎样对自己呢? ⑤湿地带。 六 今晚,父亲去了公会还没有回来,于是文六和母亲要先睡觉。 虽然文六已经是小学三年级了,但还是会和母亲一起睡觉。因为他是个独生子,这也是无可厚非嘛。 “你说给我听听今天的庙会吧。” 母亲边说边把文六睡衣的领子合起来。 文六每次一回来,母亲就会问当天的事,从学校回来就是学校的事,从城里回来就是城里的事,从看电影回来就是电影的事。文六口齿拙笨,于是断断续续地说话,可是母亲还是津津有味地听文六的故事。文六说: “神子⑥呀,我仔细看,就发现那是御多福的利根子啊。” 母亲似乎很高兴,笑一笑问: “是哦。那你还有没有发现其他的熟人呢?” 文六看似几乎回忆起来,睁开了眼,一时动也不动,不久没说庙会的事,却问: “妈妈,晚上穿上新的木屐,会被狐狸附体吗?” 母亲不知道为什么文六突然说出这种话来,看着文六的脸,愣了一会儿,后来她大概推断出来在文六身上发生了什么样的事情。 “那是谁说的?” 文六认真地重複问同样的问题后,接着问: “这是真的吗?” “那是骗人的啦,只是以前的人说过那些话而已呀。” “是谎言吗?” “谎言啊。” “确定吗?” “确定啊。” 文六沉默了半天,就在这时候,两次滚动了他的那一双大眼珠。后来又问: “可是如果是真的,怎么办?” 母亲反问: “什么怎么办?” “我是说,如果我变成狐狸,你会怎么办呢?” 母亲听了哈哈大笑,像是由内心所发出的笑似的。 “喂,喂,喂。” 这时文六露出有些不好意思的表情,双手用力推了母亲的胸膛几次。 母亲想了想说:“这个嘛,既然你已经变成了狐狸,就不能待在这里喽。” 文六听了这话,就显出寂寞的样子。 “那,我要去哪里好呢?” “在鸦根山那里,仍有一些狐狸栖息着,所以,你应该可以去那里吧。” “妈妈跟爸爸会怎么办呢?” “爸爸和妈妈会商量一下。因为可爱的文六已经真的变成了狐狸,这下,爸爸和妈妈人生的乐趣也没有了,所以,我们也不要再当人类了,一起变成狐狸吧。” 这时的母亲摆出了一副一本正经的样子说了这句话,就像每当大人捉弄孩子的时候所摆出的那样。 “爸爸跟妈妈也要变成狐狸?” “对呀。明天晚上爸爸和妈妈就一起去买新的木屐,变成狐狸后,带你去鸦根山啊。” 文六的目光充满了喜悦。他说: “鸦根,是在西边吗?” “从成岩向西南的方向的山啊。” “深山吗?” “长着很多松树的地方啊。” “那里有猎人吗?” “猎人指的是放枪的人吗?嗯,因为是山里,可能会有哦。” “妈,如果猎人来捉我们,怎么办呢?” “三个人藏在很深的洞穴里缩成一团,就不会被发现的。” “可是冬天来就没有食物啊。我们出去找食物的时候,如果被猎人的狗发现怎么办呢?” “那么,我们就拼命地跑呀。” “你们可以跑得快,可是我是隻小狐狸,一定会落后啊。” “那么,爸爸和妈妈一起拉着你的手啊。” “在这当儿,如果狗狗从后面追赶呢?” 妈妈沉思了一会儿,然后慢慢地说: “那,妈妈就拖着脚走路吧。” “为什么?” “这样,狗就会来咬我啊,然后不久猎人会来,把我捆绑起来。你们乘机逃跑吧。” 文六吓了一跳,张大眼睛,望着母亲的脸说: “妈妈,不要那样做啦。那样做,妈妈就会不见啊。” “可是只好那样做了。嗯,妈妈还是慢慢地拖着脚走路吧。” “妈妈,不要啦!妈妈就会不见啊。” “可是没有其他的办法呀。妈妈还是慢慢地拖着脚走路吧,慢慢地慢慢地……。” “不要啦!不要啦!不要啦!” 文六大声喊叫着,紧紧地抱住母亲。眼泪簌簌地流了下来。 母亲也偷偷地用睡衣的袖子擦了眼边,随后,把文六扔出去的小小的枕头捡起来,悄悄地贴在文六的头上……。 ⑥在神庙中服务,从事奏乐、祈祷、请神等的未婚女子。 狐(狐貍 日文原文) 一 月夜に七人の子供が歩いておりました。 大きい子供も小さい子供もまじっておりました。 月は、上から照らしておりました。子供たちの影は短かく地(じ)べたにうつりました。 子供たちはじぶんじぶんの影を見て、ずいぶん大頭で、足が短いなあと思いました。 そこで、おかしくなって、笑い出す子もありました。あまりかっこうがよくないので二、三歩はしって見る子もありました。 こんな月夜には、子供たちは何か夢みたいなことを考えがちでありました。 子供たちは小さい村から、半里ばかりはなれた本郷(ほんごう)へ、夜のお祭を見にゆくところでした。 切通しをのぼると、かそかな春の夜風にのって、ひゅうひゃらりゃりゃと笛の音(ね)が聞えて来ました。 子供たちの足はしぜんにはやくなりました。 すると一人の子供がおくれてしまいました。 「文六(ぶんろく)ちゃん、早く来い」 とほかの子供が呼びました。 文六ちゃんは月の光でも、やせっぽちで、色の白い、眼玉の大きいことのわかる子供です。できるだけいそいでみんなに追いつこうとしました。 「んでも俺(おれ)、おっ母(か)ちゃんの下駄(げた)だもん」 と、とうとう鼻をならしました。なるほど細長いあしのさきには大きな、大人(おとな)の下駄がはかれていました。 二 本郷にはいるとまもなく、道ばたに下駄屋さんがあります。 子供たちはその店にはいってゆきました。文六ちゃんの下駄を買うのです。文六ちゃんのお母さんに頼まれたのです。 「あののイ、小母(おば)さん」 と、義則(よしのり)君が口をとがらして下駄屋の小母さんにいいました。 「こいつのイ、樽屋(たるや)の清(せい)さの子供だけどのイ、下駄を一足やっとくれや。あとから、おっ母さんが銭(ぜに)もってくるげなで」 みんなは、樽屋の清さの子供がよく見えるように、まえへ押しだしました。それは文六ちゃんでした。文六ちゃんは二つばかり眼(ま)ばたきしてつっ立っていました。 小母さんは笑い出して、下駄を棚(たな)からおろしてくれました。 どの下駄が足によくあうかは、足にあてて見なければわかりません。義則君が、お父さんか何ぞのように、文六ちゃんの足に下駄をあてがってくれました。何しろ文六ちゃんは、一人きりの子供で、甘えん坊でした。 ちょうど文六ちゃんが、新しい下駄をはいたときに、腰のまがったお婆(ばあ)さんが下駄屋さんにはいって来ました。そしてお婆さんはふとこんなことをいうのでした。 「やれやれ、どこの子だか知らんが、晩げに新しい下駄をおろすと狐(きつね)がつくというだに」 子供たちはびっくりしてお婆さんの顔を見ました。 「嘘(うそ)だい、そんなこと」 とやがて義則君がいいました。 「迷信だ」 とほかの一人がいいました。 それでも子供たちの顔には何か心配な色がただよっていました。 「ようし、そいじゃ、小母さんがまじないしてやろう」 と、下駄屋の小母さんが口軽くいいました。 小母さんは、マッチを一本するまねして、文六ちゃんの新しい下駄のうらに、ちょっと触(さわ)りました。 「さあ、これでよし。これでもう、狐も狸(たぬき)もつきゃしん」 そこで子供たちは下駄屋さんを出ました。 三 子供たちは綿菓子(わたがし)を喰(た)べながら、稚児(ちご)さんが二つの扇を、眼にもとまらぬ速さでまわしながら、舞台の上で舞うのを見ていました。その稚児さんは、お白粉(しろい)をぬりこくって顔をいろどっているけれど、よく見ると、お多福湯(たふくゆ)のトネ子でありましたので、 「あれ、トネ子だよ、ふふ」 とささやきあったりしました。 稚児さんを見てるのに飽くと、くらいところにいって、鼠花火(ねずみはなび)をはじかせたり、かんしゃく玉を石垣(いしがき)にぶつけたりしました。 舞台を照らすあかるい電燈には、虫がいっぱい来て、そのまわりをめぐっていました。見ると、舞台の正面のひさしのすぐ下に、大きな、あか土色の蛾(が)がぴったりはりついていました。 山車(だし)の鼻先のせまいところで、人形の三番叟(さんばそう)が踊りはじめる頃は、すこし、お宮の境内(けいだい)の人も少(すくな)くなったようでした。花火や、ゴム風船の音もへったようでした。 子供たちは山車の鼻の下にならんで、仰向いて、人形の顔を見ていました。 人形は大人(おとな)とも子供ともつかぬ顔をしています。その黒い眼は生きているとしか思えません。ときどき、またたきするのは、人形を踊らす人がうしろで糸をひくのです。子供たちはそんなことはよく知っています。しかし、人形がまたたきすると、子供たちは、何だか、ものがなしいような、ぶきみなような気がします。 するととつぜん、パクッと人形が口をあきペロッと舌を出し、あっというまに、もとのように口をとじてしまいました。まっかな口の中でした。 これも、うしろで糸をひく人がやったことです。子供たちはよく知っているのです。ひるまなら、子供たちは面白がって、ゲラゲラ笑うのです。 けれど子供たちは、いまは笑いませんでした。提灯(ちょうちん)の光の中で、――影の多い光の中で、まるで生きている人間のように、まばたきしたり、ペロッと舌を出したりする人形……何というぶきみなものでしょう。 ――子供たちは思い出しました、文六ちゃんの新しい下駄のことを。晩げに新しい下駄をおろすものは狐につかれるといったあの婆さんのことを。 子供たちは、じぶんたちが、ながく遊びすぎたことにも気がつきました。じぶんたちにはこれから帰ってゆかねばならない、半里の、野中の道があったことにも気がつきました。 四 かえりも月夜でありました。 しかし、かえりの月夜は、なんとなくつまらないものです。子供たちは、だまって――ちょうど一人一人が、じぶんのこころの中をのぞいてでもいるように、だまって歩いていました。 切通し坂の上に来たとき、一人の子が、もう一人の子の耳に口を寄せて何かささやきました。するとささやかれた子は別の子のそばにいって何かささやきました。その子はまた別の子にささやきました。――こうして、文六ちゃんのほか、子供たちは何か一つのことを、耳から耳へいいつたえました。 それはこういうことだったのです。「下駄屋さんの小母(おば)さんは文六ちゃんの下駄に、ほんとうにマッチをすっておまじないをしやしんだった。まねごとをしただけだった」 それから子供たちはまたひっそりして歩いてゆきました。ひっそりしているとき子供たちは考えておりました。 ――狐につかれるというのはどんなことかしらん。文六ちゃんの中に狐がはいることだろうか。文六ちゃんの姿や形はそのままでいて、心は狐になってしまうことだろうか。そうすると、いまもう、文六ちゃんは狐につかれているかもしれないわけだ。文六ちゃんは黙っているからわからないが、心の中はもう狐になってしまっているかもしれないわけだ。 おなじ月夜で、おなじ野中の道では、誰でもおなじようなことを考えるものです。そこでみんなの足はしぜんにはやくなりました。 ぐるりを低い桃の木でとりまかれた池のそばへ、道が来たときでした。子供たちの中で誰かが、 「コン」 と小さい咳(せき)をしました。 ひっそりして歩いているときなので、みんなは、その小さい音でさえ、聞きおとすわけにはゆきませんでした。 そこで子供たちは、今の咳は誰がしたか、こっそり調べました。すると――文六ちゃんがしたということがわかりました。 文六ちゃんがコンと咳をした! それなら、この咳にはとくべつの意味があるのではないかと子供たちは考えました。よく考えて見るとそれは咳ではなかったようでした。狐の鳴声のようでした。 「コン」 とまた文六ちゃんがいいました。 文六ちゃんは狐になってしまったと子供たちは思いました。わたしたちの中には狐が一匹はいっていると、みんなは恐ろしく思いました。 五 樽屋(たるや)の文六ちゃんの家は、みんなの家とは少しはなれたところにありました。ひろい、蜜柑畑(みかんばたけ)になっている屋敷にかこわれて、一軒きり、谷地(やち)にぽつんと立っていました。子供たちはいつも、水車のところから少し廻りみちして、文六ちゃんを、その家の門口(かどぐち)まで送ってやることにしていました。なぜなら、文六ちゃんは樽屋の清六さんの一人きりの大事な坊(ぼっ)ちゃんで、甘えん坊だからです。文六ちゃんのお母さんが、よく、蜜柑やお菓子をみんなにくれて、文六ちゃんと遊んでやってくれとたのみに来るからです。今晩も、お祭にゆくときには、その門口まで、文六ちゃんを迎えに行ってやったのでした。 さてみんなは、とうとう、水車のところに来ました。水車の横から細い道がわかれて草の中を下へおりてゆきます。それが文六ちゃんの家にゆく道です。 ところが、今夜は誰も、文六ちゃんのことを忘れてしまったかのように、送ってゆこうとするものがありません。忘れたどころではありません、文六ちゃんがこわいのです。 甘えん坊の文六ちゃんは、それでも、いつも親切な義則君だけは、こちらへ来てくれるだろうと思って、うしろをむきむき、水車のかげになってゆきました。 とうとう、だれも文六ちゃんといっしょにゆきませんでした。 さて文六ちゃんは、ひとりで、月にあかるい谷地へおりてゆく細道をくだりはじめました。どこかで、蛙(かえる)がくくみ声で鳴いていました。 文六ちゃんは、ここから、じぶんの家までは、もうじきだから、誰も送ってくれなくても、困るわけではないのです。だが、いつもは送ってくれたのです、今夜にかぎっておくってくれないのです。 文六ちゃんは、ぼけんとしているようでも、もうちゃんと知っているのです、みんなが、じぶんの下駄のことで何といいかわしたか、また、じぶんが咳(せき)をしたためにどういうことになったかを。 祭にゆくまでは、あんなに、じぶんに親切にしてくれたみんなが、じぶんが、夜新しい下駄をはいて狐にとりつかれたかしれないために、もう誰一人かえりみてくれない、それが文六ちゃんにはなさけないのでした。 義則君なんか文六ちゃんより四年級も上だけれど親切な子で、いつもなら、文六ちゃんが寒そうにしていると、洋服の上に着ている羽織(はおり)をぬいでかしてくれたものでした(田舎(いなか)の少年は寒い時、洋服の上に羽織を着ています)。それだのに、今夜は、文六ちゃんが、いくら咳をしていても羽織を貸してやろうとはいいませんでした。 文六ちゃんの屋敷の外囲いになっている槙(まき)の生垣(いけがき)のところに来ました。背(せ)戸口(どぐち)の方の小さい木戸をあけて中にはいりながら、文六ちゃんは、じぶんの小さい影法師(かげぼうし)を見てふと、ある心配を感じました。 ――ひょっとすると、じぶんはほんとうに狐につかれているかもしれない、ということでした。そうすると、お父さんやお母さんはじぶんをどうするだろうということでした。 六 お父さんが樽屋さんの組合へいつて、今晩はまだ帰らないので、文六ちゃんとお母さんはさきに寝(やす)むことになりました。 文六ちゃんは初等科三年生なのにまだお母さんといっしょに寝るのです。ひとり子ですからしかたないのです。 「さあ、お祭の話を、母ちゃんにきかしておくれ」 とお母さんは、文六ちゃんのねまきのえりを合わせてやりながらいいました。 文六ちゃんは、学校から帰れば学校のことを、町にゆけば町のことを、映画を見てくれば映画のことをお母さんにきかれるのです。文六ちゃんは話が下手(へた)ですから、ちぎれちぎれに話をします。それでもお母さんは、とても面白がって、よろこんで文六ちゃんの話をきいてくれるのでした。 「神子(みこ)さんね、あれよく見たら、お多福湯のトネ子だったよ」 と文六ちゃんは話しました。 お母さんは、そうかい、といって、面白そうに笑って、 「それから、もう誰が出たかわからなかったかい」 とききました。 文六ちゃんはおもいだそうとするように、眼を大きく見ひらいて、じっとしていましたが、やがて、祭の話はやめて、こんなことをいいだしました。 「母ちゃん、夜、新しい下駄おろすと、狐につかれる?」 お母さんは、文六ちゃんが何をいい出したかと思って、しばらく、あっけにとられて文六ちゃんの顔を見ていましたが、今晩、文六ちゃんの身の上に、おおよそどんなことが起ったか、けんとうがつきました。 「誰がそんなことをいった?」 文六ちゃんはむきになって、じぶんのさきの問いをくりかえしました。 「ほんと?」 「嘘(うそ)だよ、そんなこと。昔の人がそんなことをいっただけだよ」 「嘘だね?」 「嘘だとも」 「きっとだね」 「きっと」 しばらく文六ちゃんは黙っていました。黙っている間に、大きい眼玉が二度ぐるりぐるりとまわりました。それからいいました。 「もし、ほんとだったらどうする?」 「どうするって、何を?」 とお母さんがききかえしました。 「もし、僕が、ほんとに狐になっちゃったらどうする?」 お母さんは、しんからおかしいように笑いだしました。 「ね、ね、ね」 と文六ちゃんは、ちょっとてれくさいような顔をして、お母さんの胸を両手でぐんぐん押しました。 「そうさね」と、お母さんはちょっと考えていてからいいました。「そしたら、もう、家におくわけにゃいかないね」 文六ちゃんは、それをきくと、さびしい顔つきをしました。 「そしたら、どこへゆく?」 「鴉根山(からすねやま)の方にゆけば、今でも狐がいるそうだから、そっちへゆくさ」 「母ちゃんや父ちゃんはどうする?」 するとお母さんは、大人(おとな)が子供をからかうときにするように、たいへんまじめな顔で、しかつべらしく、 「父ちゃんと母ちゃんは相談をしてね、かあいい文六が、狐になってしまったから、わしたちもこの世に何のたのしみもなくなってしまったで、人間をやめて、狐になることにきめますよ」 「父ちゃんも母ちゃんも狐になる?」 「そう、二人で、明日(あした)の晩げに下駄屋さんから新しい下駄を買って来て、いっしょに狐になるね。そうして、文六ちゃんの狐をつれて鴉根の方へゆきましょう」 文六ちゃんは大きい眼をかがやかせて、 「鴉根って、西の方?」 「成岩(なるわ)から西南の方の山だよ」 「深い山?」 「松の木が生(は)えているところだよ」 「猟師はいない?」 「猟師って鉄砲打ちのことかい? 山の中だからいるかも知れんね」 「猟師が撃ちに来たら、母ちゃんどうしよう?」 「深い洞穴(ほらあな)の中にはいって三人で小さくなっていれば見つからないよ」 「でも、雪が降ると餌(えさ)がなくなるでしょう。餌を拾いに出たとき猟師の犬に見つかったらどうしよう」 「そしたら、いっしょうけんめい走って逃げましょう」 「でも、父ちゃんや母ちゃんは速いでいいけど、僕は子供の狐だもん、おくれてしまうもん」 「父ちゃんと母ちゃんが両方から手をひっぱってあげるよ」 「そんなことをしてるうちに、犬がすぐうしろに来たら?」 お母さんはちょっと黙っていました。それから、ゆっくりいいました。もうしんからまじめな声でした。 「そしたら、母ちゃんは、びっこをひいてゆっくりいきましょう」 「どうして?」 「犬は母ちゃんに噛(か)みつくでしょう、そのうちに猟師が来て、母ちゃんをしばってゆくでしょう。その間に、坊やとお父ちゃんは逃げてしまうのだよ」 文六ちゃんはびっくりしてお母さんの顔をまじまじと見ました。 「いやだよ、母ちゃん、そんなこと。そいじゃ、母ちゃんがなしになってしまうじゃないか」 「でも、そうするよりしようがないよ、母ちゃんはびっこをひきひきゆっくりゆくよ」 「いやだったら、母ちゃん。母ちゃんがなくなるじゃないか」 「でもそうするよりしようがないよ、母ちゃんは、びっこをひきひきゆっくりゆっくり……」 「いやだったら、いやだったら、いやだったら!」 文六ちゃんはわめきたてながら、お母さんの胸にしがみつきました。涙がどっと流れて来ました。 お母さんも、ねまきのそででこっそり眼のふちをふきました、そして文六ちゃんがはねとばした、小さい枕(まくら)を拾って、あたまの下にあてがってやりました。 |
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wonderful
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浑人落魄江湖行,东西南北分不清 撞到墙角浑不觉,躺在地上数星星 |
#3
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多么美好的情感......
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